「いっぷく」コーナー 桃・ももの研究 −上品な甘味と豊かな香りがあなたを魅 了する− ●皆が大好きな親しみ深い果物 とっても甘く、水菓子にふさわしい果物です。バラ科サクラ属モモ 亜属で、春に花が咲いて真夏に実が熟します.ちょっと意外ですが、 植物学的にはアーモンドと親戚で、おそらくもともと同じ野生種だった といわれています。 その野生種の原産地は中国中央部の高原地帯です。栽培も、かな り 古くから行われていたようです。孔子の書物にすでに出ているところ から、約紀元前五世紀ごろではないかといわれています。 ももは、中国では長寿のしるしとされていました。むかい、西王母と い う人がももを食べて、不老不死の神仙になったといわれていますし、 また、紀元前三世紀末の詩人・陶淵明が、理想郷として桃源郷を描 いています。もっともこちらの場合はももの花が主役だったようです。 現在でも、中国のお祝いのテーブルには、ももの形をしたまんじゅう が必ず並んでいるはずです。 日本でも弥生時代から食されていたそうえすが、現在のように果物 と しての価値が高くなったのは、明治のはじめに欧米や中国から新しい 品種が入ってきてからです。また、民族的にも「桃太郎」などの民話 や「ももの節句」など、親しみのある果物といえます。 野生のももは明治時代ごろまではありましたが、現在はほとんどな く なったといってもいいでしょう。 日本のおもな栽培生産地としては、山梨県が圧倒的に多く、ほか に、 長野県、福島県、香川県、山形県、岡山県などがあります。 ●ももにも品種があるの、ご存知ですか? 品種はたくさんあり、早生、中生、晩生種と生産者は区別していま す。最近は、ビニールハウスで栽培された早生種が五月下旬には出 回り、露地栽培のものが九月下旬までありますが、ピークはやはり七 月から八月にかけてとなり、品種改良と栽培技術の進歩でとてもおい しくなりました。ちょうど収穫前が梅雨どきに当たるので、そのときの 天候によって糖度が左右されるということがあります。 早生ものは、六月から七月初めにかけて出回ります。しかし、 「あっ、 もうももが出た」と飛びついて食べて、がっかりした経験がある方もい ると思います。たしかに以前は、早生種はどうしても甘みが少ないの で味が悪いといわれていました。しかし近頃はそういったことも少なく なり、倉方、砂子といた二、三年前の早生の品種はほとんど姿を消し ました。早生種は柔らかくなると味が落ちるので、なるべく固いくらい のときに食べるようにするといいでしょう。柔らかくなめらかな濃密な 味は期待できませんが、新鮮な香りでさっぱりとしたフレッシュ感を楽 しめます。 最近もさまざまな品種改良がされて新種がどんどん出てきていま す。しかし梨やぶどうのように、「幸水」とか「巨峰」などと品種名でよ ばれることが少ないように思います。親しみがあるわりには、なんでも 「もも」の一口ですませているようです。果物の専門店に行くとたいて い品種名が書いてあるので、のぞいてみてはいかがでしょう。 ここでももの品種をご紹介しましょう。 白鳳-----白桃を母にして、神奈川県農業試験場で育成され た品種 です。お盆がすぎたころに出回る中生種で、よくお盆用の贈答品に使 われています。果肉は緻密で、果汁も甘みもたっぷりしているのが魅 力です。酸味もほとんどなく、現在の成長株のひとつです。ただし核 離れはよくありあせん。 白桃-----明治末期に岡山県の精農家の育成した品種で、 中国の上 海水蜜桃が起源といわれています。生食用の白肉種のなかでは最も おいしい品種で、白鳳とともに高級品とされています。果肉は緻密で 固くしまり、ねっとりとしています。甘みも強く、果汁も十分なので、い かにも「もも」らしい美味しさです。完熟しないと柔らかくならないので 日もちがいい反面、白鳳と同様に核離れが悪いのが難点といえま す。 白桃系として、果皮の色が真っ白で岡山でしか作っていない清水白 桃や、果皮果肉ともに赤い山根白桃などとよばれる品種があります。 とくに山根白桃は白桃のなかでも代表的な存在となっています。 大久保---白桃の発見者である大久保重五郎氏にちなんで命名され ました。市場に出回るのは七月ごろです。果肉はややアラめで、繊維 を多く含んでいますが、甘みや酸味もたっぷりしています。ほかの品 種に比べると淡白で上品な味です。種が取りやすく核離れはいいほう です。 蟠桃-----中国の広東州に原木があり、中国では慶祝事に 使われて います。扁平な形をしており、見た目はあまりよくありませんが、果肉 は柔らかくて甘みも強く美味といえます。日本では岡山の駅前に植え てありますが、わずかに栽培されているだけで、珍味として扱われて います。 天津水蜜桃-----白鳳も白桃も中国の華中系の上海水蜜系 の品種 ですが、このももは華北系品種で、童話「桃太郎」にちなんだ品種で す。以前はよく作られていましたが、今はほとんど作っていません。こ のももを熟期の固いうちに砂糖煮しますと、果肉が真赤になり、缶詰 ではまったく味わえない非常においしいものでした。 この他、最近の早生種としては日川白鳳、八幡白鳳などがありま す。 これらは白鳳の枝が突然変化を起こしたもので、親品種よりも早く熟 しながら親品種と同じくらいの品質を持っています。このような新種が 熱心な農家によって続々と発見されており、これからももっとよい品 種が生れるといわれています。現在の栽培品種のほとんどすべてが 白鳳、白桃から生まれたことから「何々白鳳」「何々白桃」という名が つけられているものが大部分です。 ●美味しいももはこうして選ぶ まず甘い香りの高いものを選びます。そして、横、縦のバランスがよ く、全体的に丸みをおびているものにします。いびつな形をしているも のは避けましょう。よく、手で押されてへこんでいるものがあります が、それもよけるようにします。 ももは柔らかい果物ですから、とくに人の手に触れた部分から痛み や すいものです。くだもの屋のおじさんににらまれるまでもなく、店頭で 選ぶときはなるべく手で押したりいないようにしてください。 また、すももなどと同じように、新鮮なももにはうぶ毛が残っていま す。うぶ毛がなくツルツルして黄ばんでいるものは、古くなっている証 拠です。 果皮の色は、もも全体にまんべんなく、鮮やかな赤やピンク色を呈 し ているものがいいでしょう(ただし、岡山の白桃は例外です)。太陽に 十分にあたって赤くなったものが、甘みも出て美味しいからです。軸 のほうや地肌が青いものは未熟ですから避けるようにします。 ●ももの食べ方にも作法があります 買ってきたらすぐ洗うというのはよくありません。洗ってしまうと、鮮 度 がすぐに落ちてしまいます。一般的に柔らかくなりすぎると味も落ちて きますから、なるべく長くおかないで食べるほうがいいでしょう。 食べる前に、うぶ毛が取れるようによく洗って丸ごとかじるのがいち ば んおいしい食べ方です。柔らかくなってしまったものはむずかしいか もしれませんが、完全に熟れる直前に皮ごと食べるのがなによりだと 思います。でもこれは、わたしたちだけのことかもしれません。しか し、こうすると皮の味も一緒に味わうことができ、くだものの本当の美 味しさを味わえるのです。 よく、ももは皮をむくのが面倒だから、と敬遠される方がいます。し か し、これはわたしだけの考えかもしれませんが、皮がむきにくいほうが 味がいいように思うのです。種類にもよりますが、あまり皮がスース −ッとむけてしまうのは、美味しくないものです。果肉が一緒にくっつ いてしまうくらいのほうがいいと思います。 どうしても皮を上手にむきたいときは、ぬるま湯につけると皮はむき や すくなりますから、一度試してみてください。そしてなるべくなら、ナイ フではなく手でむいたほうがいいでしょう。 ナイフを使う場合も、はじめは果肉がつぶれないようにナイフの刃先 を当て、皮を手前に引き切るようにします。そして、種に沿って刃先を 縦に入れ、両手で反対方向に回すと半分に割れますから、片方から 種を取り出すと簡単にできます。しかし、なるべく皮ごと切って皮ごと 食べることをおすすめしたいですね。 また種類によっては実離れのいいものもありますが、同じように、実 離れや種離れがいいというのも、あまりおいしいものとはいえません。 なかなか実が取れないとうほうが美味しいでしょう。 ちょっと話がずれますが、みかんでも同じことがいえるのです。最近 のみかんはみんな皮がスムーズにむけますが、本当に実がキュッと しまっているみかんは、皮がなかなかむけない場合が多いのです。 途中で皮が切れてしまうくらいのものがいいです。 また皮がフカッとしているものは酸が抜けているということもあって、 食べやすいほうとか酸が少ないほうを選びがちなのかもしれません。 しかし本来の味は、皮がくっついているものが美味しいと思います。 実の密度があり、しまっていると離れにくいはずなのです。 よく、ナイフを使わないと皮がむけないももはももじゃない、といっ て、 スーッと皮がむけるほうを好む方もいるようです。種類によっては、皮 がスーッとむけるものもあり、岡山のむかしからある白桃などはその 種類です。しかし、今出回っているもものなかでは、スーッとむけて美 味しいももは少ないはずです。 中生種くらいまでのももは、過熟になるとすぐに味が落ちてしまいま す。七月末ごろに出てくる山根白桃などは賞味期間は比較的長いの ですが、どちらにしても、あまり過熟させないほうがいいでしょう |